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東京地方裁判所 昭和36年(行)46号 判決 1971年10月20日

原告 東京ガス不動産株式会社

右代表者代表取締役 安西浩

右訴訟代理人弁護士 鎌田英次

同 松島邦夫

同 小屋敏一

被告 東京都中央税務事務所長 島崎銃三

右訴訟代理人弁護士 三谷清

右指定代理人 石葉光信

<ほか五名>

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める判決

(原告)

被告が原告に対し昭和三〇年一月一七日付で別紙目録(一)記載の建物についてした不動産取得税賦課処分を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

(被告)

主文同旨

第二原告の請求原因

一  被告は原告に対し、昭和二九年法律第九五号による改正後の地方税法(以下たんに法という。)第七三条の二第二項の規定に基づき、昭和三〇年一月一七日付をもって、原告所有の別紙目録(一)記載の建物(以下本件建物という。)につき課税標準七七八、一五九、〇〇〇円、税額二三、三四四、七九〇円とする不動産取得税賦課処分をした。

これに対し、原告は、同年二月一六日東京都知事に異議の申立てをしたが、昭和三六年二月二日右申立てを棄却された。

二  しかし、右賦課処分はつぎの理由により違法である。

(一)  原告の本件建物の取得については法第七三条の二の規定を適用する余地がない。

不動産取得税は、前記昭和二九年の地方税法の改正により創設されたもので、右改正法は、建築された家屋に対して課する不動産取得税については昭和二九年七月一日から適用されるものであったが(附則第二〇項)、本件建物は、昭和二九年六月三〇日までに、その主体工事を一〇〇パーセント完了し、仕上工事も七〇パーセントを終了して、すでに独立の不動産として存在しており、原告は請負人である清水建設株式会社との請負契約によりその所有権を原始取得していたのであるから、このように法適用前に不動産を取得したものに対し遡って不動産取得税を課することは許されない。

(二)  本件賦課処分は、課税標準としての建物の価格の決定についても誤りがある。

法第七三条の二一第二項によれば、固定資産課税台帳に価格が登録されていない不動産については、法第三八八条第三項の規定によって自治庁長官の示す評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続(以下自治庁評価基準という。)に準じて、不動産取得税の課税標準となるべき当該不動産の価格を決定すべきものと定められているところ、右自治庁評価基準によると、家屋の附属設備で家屋と一体をなして効用を発揮しているものは家屋に含めて評価するが、附属設備のうち事業用機械と目されるものについては償却資産として別途評価するものとされている。しかるに、本件建物の価格の決定にあたっては、右評価基準にいう事業用機械にあたる別紙目録(二)記載の各物件を建物に含めて評価・算定しているから、これに基づく賦課処分も違法である。

(三)  さらに、本件賦課処分には裁量権を濫用した違法がある。

租税の賦課については、政策上の理由いかんに拘りなく、納税者に対する公平、平等の原則を破ることは許されないところである。したがって、本件建物のように法適用の前後にまたがって建築された家屋の取得に対する不動産取得税の課税にあたっては、右の公平、平等の原則に基づき、改正法の修正と実質的配慮をなすべきことが当然の要請であり、法適用の直前に完成した建物とその直後に完成した建物とで、截然と一線を画し、前者に対しては全面的に非課税とし、後者に対しては全面的に課税することは著しく不公平、不平等な結果を生ずる。それゆえ、自治庁においても、いたずらに改正法の機械的運用に堕することのないよう、昭和二九年九月二五日自丁府発第八一号通達をもって、建築が未了と認められる場合でも期間按分方法による税の減免を考慮すべきであることを明らかにしていた。本件建物は、法適用の前日である昭和二九年六月三〇日現在において主体工事を一〇〇パーセント、仕上工事を七〇パーセント完成し、すでに独立の建物となっていたのであるから、仕上工事の三〇パーセントを残していたとの理由のみで、改正法を機械的に適用し全面的課税措置をとったことは、裁量権の濫用による違法な処分というべきである。

三  よって、本件賦課処分の取消しを求める。

第三被告の答弁と主張

一  請求原因に対する答弁

請求原因第一項の事実は認める。

第二項(一)の主張は争う。同(二)のうち、被告が本件建物の評価にあたり、別紙目録(二)記載の物件を建物に含めて価格を決定したこと、右目録記載物件中一(消火設備)の(二)(三)(四)(五)及び二(暖冷房換気設備)の(一)ウを除くその余の物件は、自治庁評価基準によれば償却資産として別途評価すべきものであることは認めるが、右一の(二)(三)(四)(五)及び二の(一)ウの物件は同基準によっても本件建物に含めて評価すべきものである。同(三)の裁量権濫用の主張についても争う。

二  本件建物に対する法の適用について

法第七三条の二第二項によれば、家屋が新築された場合においては、原則として、これを最初に使用又は譲渡した日をもって家屋の取得があったものとみなし、その所有者又は譲受人を取得者とみなして不動産取得税を課するものと定められており、前記附則第二〇項が、建築された家屋に対して課する不動産取得税については法の規定を昭和二九年七月一日より適用すると定めているところからすると、昭和二九年七月一日以降に新築された家屋の取得があった場合に、その家屋の所有者又は譲受人に対し不動産取得税を課すべきことは明らかであるが、右にいう新築された家屋とは、以下に述べる理由により、たんに所有権の取得の対象となりうる程度の建物を指すものではなく、建物として本来の用途に供することができる程度に完成した建物、すなわちその家屋の建築の一連の工事の段階で、それ以上家屋の価格の増加を期待できない程度に工事を完了したと認められる状態に達した建物をいうものと解すべきである。

1  法第七三条の二第二項本文においては、「家屋が新築された場合」と過去形の文言が用いられ、同項但書は「家屋が新築された日」と規定して、その日の特定できることを予想していることよりすれば、それは、たんに建築工事の進行過程において不動産として遇しうべき状態に達した日というようなあいまいな日を指すものではなく、建物として完成した日とみるべきことは明白である。

2  もし建築中の家屋が不動産として遇しうべき状態に達したときに家屋が新築されたものとみるべきものとすれば、大きなビルディングの新築工事においては、主体工事の完了から竣工検査を受けるにいたるまでには相当長期の時日を要するのが通例であるから、主体工事が終り、いちおう不動産として遇しうべき状態に達してから六ヵ月以上を経過して、なお、工事が完成しない場合には、その工事の主たる建築材料の供給者が請負人であれば、法第七三条の二第二項但書により、まず請負人に対して不動産取得税が課され、さらに工事完了後右家屋が注文者に引き渡されたときに、法第七三条の二第一項により、注文者に対して不動産取得税が課されることとなって、請負人又は建売業者の形式的な所有権取得に対する課税を避けようとした同条第二項の立法趣旨を滅却することとなる。

3  また、新築家屋とは、不動産として遇しうべき状態に達した工作物で足りるということになると、その後の工事の進行により家屋が完成するまでの間に生じた価格の増加部分は、右工事を法第七三条第八号の改築と認めることはできないから、これに対し不動産取得税を課することができず、法第七三条の二第三項に規定する家屋の改築の場合に比し、著しく課税の均衡を失することとなる。

(二) 右のとおり、家屋の新築による取得については、その家屋が本来の用途に供しうる程度に完成したことが不動産取得税賦課の要件であり、したがって、右の意味において完成していないときは、独立の建物として遇しうべき状態に達した家屋であっても、その譲渡による取得に対し不動産取得税を課されることはない。しかし、これは家屋の新築による取得の場合だけにかぎられることであって、それ以外の場合、たとえば火災により本来の用途に供しえなくなった焼ビルのようなものについて所有権の譲渡があった場合には、それが独立の建物として遇しうべき状態を有するかぎり、法第七三条の二第一項の規定によって不動産取得税が課されるのであり、その反面、右焼ビルの取得者がこれを修復して本来の用途に供しうる程度に完成させても、その修復が法第七三条第八号の改築にあたらないときは、その修復による価格の増加部分には課税されないこととなるのである。

かように、新築家屋とそれ以外の既存家屋とでは、その取得に対する不動産取得税の取扱いを異にするけれども、あらたに不動産として生成中でいまだその完全性を保有するにいたらない場合と、いったん不動産として完成したものがなんらかの原因によってその完全性を失った場合とでは課税上取扱いが異なってもやむをえないというべきである。新築家屋の場合には、その実質的な建築主は、建設業者等を経由して所有権を取得することが一般的に予想されるところであるが、焼ビルの場合にはかかることは通常予想されないので、法は、前者の場合について特例規定を設けて実質的な二重課税を避け、税負担の公平をはかったものといえるのである。

(三) ところで、新築された家屋がその本来の用途に応じて現実に使用収益しうる程度に完成しているかどうかは、当該家屋について具体的に考察すべきものであり、本件建物のような近代的高層ビルディングにおいては、温湿度調整設備、給排水衛生設備、電気設備等は、建物としての機能を全うするために不可欠の要素であって、これらの施設が完成されないかぎり、建物が完成されたとは認められない。しかるに、昭和二九年六月末日現在における本件建物の状態は、外部には足場が組みめぐらされ、内部や天井の仕上工事や昇降機の据付工事の施行中で、前記諸施設はいずれも未完成であり、これを使用することは不可能な状態であったから、同日現在において本件建物の「新築」があったものと認めることはできない。しかも、法第七三条の一八及び東京都都税条例第四五条に基づき原告が東京都知事に対して提出した不動産取得税申告書には、不動産取得年月日が昭和二九年九月三〇日と記載されており、また、建築基準法第七条第三項による検査済証記載の工事完了検査年月日が同日であること等よりすれば、本件建物が新築されて、その家屋の取得があったとみなされる最初の使用又は譲渡のあったのは、昭和二九年九月三〇日以降のことであるから、同年七月一日施行の前記法第七三条の二第二項の規定を本件建物に対して適用したことは、なんら違法ではない。

三  本件建物の評価について

(一)  被告が、本件建物の評価にあたり、自治庁評価基準によれば建物の価格に算入されない機械設備を含めて価格を算定し、課税標準としたことは前記のとおりである。

しかし、法第七三条の二一第二項によれば、固定資産課税台帳に価格の登録されていない不動産については、法第三八八条第三項によって示された自治庁評価基準に準じて不動産取得税の課税標準となるべき価格を決定すべきこととされているところ、「準じて」ということは、「よって」又は「従って」という場合とは異なり、ある一定の規定又は事柄を基準として、これにのっとるが、原規定なり、もとの事柄なりを離れて別の規定を設け、あるいは取扱いを定め又は計算などをすることをいい、一定の規定をそのまま適用しなければならないことをいうものではない。そこで、被告は、本件建物の評価にあたり、自治庁評価基準をそのまま適用せず、東京都において右基準にのっとって作成した東京都固定資産評価要綱(以下都評価要綱という。)に従って課税標準となる価格を算定したのであるが、この両者を比較すると、自治庁評価基準第二章第八項(附属設備の評価)では、家屋の附属設備に附属する事業用機械類(主としてポンプ、モーター)については、償却資産として別途に評価することとなっているのに対し、都評価要綱第三章家屋の評価第一節通則中(家屋の範囲)の(2)では、もっぱら且つ直接家屋の効用を増すために設けられた設備は、家屋とその諸設備がその所有者を異にする特例の場合を除き、家屋の一部として家屋の価格に包含するものとし、これら設備に附属する機械をとくに除外せず、これを附属設備と一体として家屋に包含すべきものとされており、家屋の附属設備に附属する機械類について自治庁評価基準と取扱いを異にしているにすぎないから、この程度の相違を理由に、都評価要綱が自治庁評価基準に準じていないとはいえない。

(二)  のみならず、自治庁評価基準が示達された昭和二八年七月一五日当時の地方税法第四〇三条によれば、固定資産の価格の決定は所定の場合を除き市町村長(特別区の存する区域については、法第七三四条第一項により都知事。以下同じ。)の独自の判断と責任をもってなすべきこととされていたのであるから、自治庁評価基準は、本来、市町村長に対し技術的援助を与えるために示されたものにすぎず、全国一律に右基準どおりに評価させるという趣旨ではないというべきである。したがって、法第七三条の二一第二項の意味するところは、自治庁評価基準に準じた基準といえるものがあれば足りるということであって、その細部においてこれと異なった評価の方法をすべて禁じているわけではなく、右規定は、いわば訓示的なものであったと解すべきである。

自治庁(省)評価基準が法的拘束力を有するにいたったのは昭和三七年法律第五一号による改正により、法第三八八条の規定が全く改められ、同基準が、市町村長に対する技術的援助としてではなく、告示をもってこれを示すべきものとされるとともに、法第七三条の二一第二項の規定により、不動産取得税の課税標準となるべき価格は同基準によって決定することと定められたときにはじまるのである。右昭和三七年の改正法が昭和三九年度から適用されるものとされ、その猶予期間中に改正評価制度の実施について関係機構の充実強化、職員の資質向上をはからせるようにし、また、自治庁(省)評価基準第二章家屋第四節に経過規定を設け、昭和三九年度から三年間は実情に応じて簡易な評価方法をとることを認めたことは、右法改正までは同基準が法的拘束力を有しないものとされていたことを示すものであり、実際にも、横浜市以外の六大都市をはじめ右基準を採用していなかった市町村は多数に及んでいたのである。

(三)  また、自治庁評価基準は、家屋の範囲を絶対的に確定したものではなく、このことはつぎの点からも明らかである。

1 同基準第二章第八項は、「左表上欄の附属設備に附属する同表下欄に例示する機械で事業用のもの(左表上欄の附属設備であっても、事業用のもので帳簿上家屋と別個に償却資産として処理している場合を含む。)については償却資産として別途評価するものとし」と定めているが、これによれば、家屋の所有者が帳簿上償却資産として処理しているかどうかによって家屋の範囲が異ならざるをえない。

2 昭和二九年一一月一九日自乙市発第六七号改正では、右の括弧書を削除し、左表下欄に例示する機械で事業用のものは「通常は償却資産として評価するものとし」と改められているが、「通常は」ということは、例外を認めたものであり、自治庁評価基準を一律に強制するものではないことを明らかにしている。

(四)  自治庁評価基準によれば、家屋の附属設備に附属する事業用機械は家屋の評価に含めないこととされているが、不動産取得税の課税標準は、不動産を取得したときにおける適正な時価とされており(法第七三条の一三第一項、第七三条第五号)、新築家屋については、本来の用途に供しうる程度に完成した家屋の取得時における適正な時価でなければならないから、その家屋の評価には、家屋と一体をなして効用を発揮している附属設備に附属する機械類をも含めるのが普通であり、自治庁評価基準により算定された価格を家屋の適正な時価といいうるかは疑問である。

とりわけ、本件建物のような巨大な近代的高層ビルディングにおいては、木造の普通建物とは異なり、附属機械類を含めた附属設備一式が、建物としての機能、効用の上から不可欠であり、たとえば、附属設備のうち配管装置や配線装置は家屋の一部であるが、ポンプ、モーター類は家屋の一部でないというような自治庁評価基準の例示は、少なくとも完成された本件建物について考えるかぎり、甚だしく不合理である。

(五)  ところで、被告が本件建物の評価に用いた都評価要綱は、東京都が固定資産税の課税客体である固定資産を評価するため、通達で示された家屋税事務規程(昭和一八年一〇月一日東京財務局長訓令第三一号。家屋税関係の評価事務について大蔵省当局が準拠していたもの。)をもとに、学識経験者からなる東京都固定資産評価協力委員会の意見を参考として、昭和二六年に作成し、同年度分固定資産税より使用してきたものである。そして、右家屋税事務規程によると、自治庁評価基準が家屋に含めていない附属機械についても家屋の一部と認め、家屋の時価に包含するものとしているので、都評価要綱においても、家屋の範囲については右規程と全く同様の規定を設けたのである。その後昭和二八年七月一五日に自治庁評価基準が示達されたが、右基準は、前記のとおり市町村長に対する技術的援助の方法として示されたにすぎず、東京都のようにすでに評価の基準をもった市町村がこれをそのままとりいれなければならないものとされたのではなかったこと、また、東京都においては都評価要綱に基づく評価が自治庁評価基準に先立つこと三年の実績を有しており、自治庁評価基準に変更することは種々の摩擦を生じて税務行政上好ましくないと判断されたこと等により、都評価要綱については結局表現等の点について若干の修正をしたにとどまり、右自治庁評価基準を採用するにいたらなかった。

右都評価要綱が家屋の適正な時価の算定方法として合理性を有することは、つぎの点からもいいうるところである。すなわち、現行地方税法第七三条の二第六項は、家屋が建築された場合において、家屋の主体構造部の取得者以外の者が主体構造部に取りつけて一体となって家屋としての効用を果している附帯設備(自治庁評価基準第二章第八項の償却資産とすべき附属機械類が該当すると考えられる。)は主体構造部の取得者が主体構造部とともにあわせて取得したものとみなして課税することができる旨規定しているが、この趣旨は、一般の家屋では家屋の取得者が造作設備等のすべてを自ら設置するのに対し、賃貸家屋中には賃借人が設備することもあり、その場合の造作設備等は家屋取得者の取得したものでないから不動産取得税の課税標準たる不動産価格に包含できないと考えられ、一般家屋の取得の場合と均衡を失する点を考慮したものである。このことは、家屋取得者が同時に取得する造作設備(自治庁評価基準で償却資産とすべき機械類を含む。)については当然に不動産価格の構成内容となるべきことを予定しているものというべきであり、都評価要綱の規定はむしろ自治庁評価基準よりも右法の趣旨に合致しているものである。

(六)  かりに、不動産の価格の決定について、自治庁評価基準が法律的拘束力を有するものであるとしても、その拘束力は評価の方法にかぎられるものであって、評価の対象、すなわちなにを家屋とするかについてまで拘束されるものではないと解すべきである。

すなわち、不動産取得税の課税標準となるべき不動産の価格は、法第三八八条第三項によって示された自治庁評価基準に準じて決定すべきものであるが、ここに評価というのは、ある不動産が存在する場合にその価格すなわち適正な時価を算定することであって、評価ということと、評価の対象たる不動産の範囲を具体的にいかに把握するかということは、それぞれ別個の観念に属するものである。

ところで、不動産ことに家屋の意義については、法第七三条第三号及び第三四一条第三号において、住宅、店舗、工場、倉庫、その他の建物をいう(但し、発電所及び変電所については、後者においては家屋に含まれ、前者においては含まれない。)と規定するだけであるから、ある家屋について、具体的にいかなる範囲、部分までを家屋と認めるかどうかは、一般社会通念にてらして判断すべき問題であり、窮極的には裁判所の判断によるべきものである。これに対して、評価ということは、不動産の範囲の認定の問題とは本質的に異なり、きわめて専門技術的な知識経験を要するものであるので、法律は、とくに自治庁長官が評価の基準等について市町村長に対し技術的援助を与えるように定めているのである。もっとも、自治庁評価基準のなかには、家屋に含めるべき附属設備について、その附属機械類を償却資産として除外すべき旨の定めがあるけれども、これは家屋の評価方式として、家屋の主体部分と同様、附属設備も個々の部分に分析してその一つ一つについて標準評点数を示して計算する仕組みになっている関係上、個々の附属設備について、いかなる範囲までを家屋に含めるべき設備と認めるかどうかを決める必要があるので、この点について自治庁としての見解を示したもので、家屋に含めるべき附属設備の範囲いかんという問題は、前記のように一般社会通念によって判断すべきものであって、評価ということと、その対象物の範囲を決めることとは別個の事柄である。

そうだとすると、附属設備の範囲すなわち家屋の範囲の問題についてまで、評価方法自体と同様に自治庁の見解によって市町村長等が法律的拘束をうけるとはとうてい考えられない。したがって、市町村長が家屋の評価にあたって自治庁評価基準によってある程度の拘束をうけるとしても、それはあくまでも、評価の方式自体についてであり、附属設備のいかなるものをいかなる範囲において家屋の構造部分とみるべきかについて自治庁の見解に従わなかったという一事をもって、ただちに違法とすることはできない。そして、附属機械をも含めた附属設備一式を家屋と一体としてみることが社会常識であることは前記のとおりであるから、本件建物の評価に違法はないといわなければならない。

(七)  不動産取得税の課税標準は、不動産を取得した時における不動産の価格(法第七三条の一三第一項)であり、価格とは適正な時価をいう(法第七三条第五号)と法は規定するのみであるから、結局、右課税標準は社会的客観的に公正な市場価格をいうものと解すべきであって、家屋について考えた場合、その構成内容が法で明定されないかぎり、社会通念に従ってその範囲を判断し、その範囲における家屋について適正な時価を決定すべきものである。そして、自治庁評価基準は、その規定した家屋の範囲について適正な時価を算出するための方法を示したものであるから、地方公共団体がこれによって算定した価格が一応全国的に均衡のとれたものであり、適正な時価もしくはそれに近いものであろうことは期待できる。しかし、その価格が常に法の要請するとおり適正な時価であることを保証するものではない。自治庁評価基準自体に不備が全然ないとはいえないし、また、右基準によって機械的に具体的数字が算出しうるものではないから、これを実際に適用するにあたってはやはり誤りもありうるのであって、決定された価格が適正な時価を上下することも生じうるのである。この場合に、そのよった基準が自治庁評価基準であることを理由に適正な時価であると主張することは許されず、適正な時価を超過した部分については賦課処分の取消しを免れないし、逆に、適正な時価を超過しないならば、そのよった基準のいかんにかかわらず取り消されることはないのである。

そうだとすると、行政庁内部の手続にすぎない算定方法の是非を論ずることは適正な時価という点から考えると全く意味のないことともいえるのであって、課税標準についてはその価格が適正な時価でありさえすればよいのである。したがって、原告が本件賦課処分に不服であればすすんで決定価格が適正な時価を上廻るものであることを具体的に明らかにすべきであって、たんにその算定方法が誤っているということで本件賦課処分の全部取消しを求めることは失当である。

(八)  かりに、以上の主張が理由なく、原告主張のように自治庁評価基準によらなければならないとしても、自治庁評価基準により算出される本件建物の価格は、七三四、四六四、八〇〇円、したがってその税額は二二、〇三三、九二〇円であるから、原告としては、本件賦課処分における課税標準価格七七八、一五九、九〇〇円、税額二三、三四四、七九〇円のうち右自治庁評価基準により算出される価格を超える課税標準四三、六九五、九〇〇円、税額一、三一〇、八七〇円の取消しを求めれば足りる。

四  裁量権の濫用について

一般に、税法においては、その特質上、課税、非課税、税の減免等に関する事項はすべて法令により明確に規定され、課税庁はただ機械的に関係法令を適用執行する義務を負うだけで、課税庁の自由裁量によって課税に関し斟酌する余地をほとんど与えられていない建前となっているのである。したがって、かりに原告の主張するような課税の不公平・不平等があるとすれば、その是正は、立法にまつべき問題であって、課税庁としては、ただ法令をそのまま執行するほかはなく、裁量によって適宜の処分を行うことは許されないことであるから、原告のいう裁量権の濫用というようなことは、とうてい考えられないことである。

また、原告の主張するような課税の不公平・不平等という問題については、一般にあらたに税目が設けられたり、税率が改正されたりする場合には、その過渡的段階において、納税者側に事実上の有利不利ということが生ずるかもしれないが、その点に対する立法技術的な解決がなしえないかぎり、事柄の性質上やむをえないことであって、少なくとも、それは税法の適用執行上の不公平・不平等とは別個の問題である。

本件のように、建築された家屋に対して課する不動産取得税に関しては、土地の取得や既存家屋の承継取得に対して課税する場合と異なり、法の公布の日(昭和二九年五月一三日)と課税に関する関係規定の適用期日との間に約一ヵ月半の猶予をおいて、立法上の配慮をするとともに、建物の完成、家屋の使用等が右適用期日までに行われないでその期日以後になった場合には、すべて一律に課税する建前となっているのであって、この点においては法の適用執行上の不公平・不平等ということは生じないのである。

本件建物については、前記適用期日までに建築工事が相当進んでいたとしても、不動産取得の要件たる建物の完成、その使用等の事実が存しない以上、また、右適用期日の前後にわたり建築工事が行われる過渡的な場合に処するための税の減免等の特別の経過規定が法にないかぎり、課税庁においてその裁量により課税について適宜の処分をすることは上述のような税法の特質上不可能のことであるから、この点に関する原告の裁量権濫用の主張はすべて理由がない。

第四被告の主張に対する原告の反論

一  本件建物に対する法の適用について

(一)  法第七三条の二第二項は、家屋が新築された場合には、その最初の使用又は譲渡の日をもって家屋の取得があったものとみなす旨規定しているが、同条は、昭和二九年七月一日から適用されるのであるから、同日前に新築された家屋であれば、使用を始めた日が同日以後であっても、これに不動産取得税を課することは許されない。そして、右にいう新築の意義については、法に特別の定義規定がないけれども、家屋の建築の場合には、その建築物が独立の不動産として遇すべき状態に達したとき、すなわち屋根及び周壁を有し土地に定着する一個の建造物として存在するにいたったときに、その所有権が原始取得されるものであることは判例上確定しているところであるから、そのときをもって家屋の新築があったものと解すべきであり、現実に使用収益しうる程度に完成することが必要であるとの被告の主張は失当である。

(二)  ところで、本件建物は、昭和二八年四月一五日建築に着工し、同二九年六月三〇日現在においては、主体工事を一〇〇パーセント、仕上工事を七〇パーセント完了し、独立の不動産としての存在を完全にそなえていた。そして、右建築の主材料はすべて注文者である原告が請負人に支給し、副材料も原告が請負人に支払った前渡金によって購入されたものであるから、独立の不動産となると同時に原告がその所有権を原始取得した。したがって、本件賦課処分は、昭和二九年七月一日前に新築された家屋の取得に対して課税したものであって、違法である。

(三)  被告は、原告の提出した本件不動産取得税申告書に取得年月日が昭和二九年九月三〇日と記載されていることや、建築基準法による検査済証に記載された工事完了年月日が同日であることから、本件建物の新築取得が同日以後のことであると主張するけれども、右申告書記載の取得年月日は、東京都建築主事が右検査済証に記載した工事完了年月日に東京都側で符合せしめたものにすぎないし、また、建築基準法の目的と不動産取得税の課税目的が全く異なることからすれば、同法による工事完了検査年月日によって不動産取得税における家屋取得の時期を判定することはなんら合理性がない。

二  本件建物の評価について

(一)  被告は、法第七三条の二一第二項が「第三八八条第三項の規定によって示された評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続に準じて」と規定しているところからして、自治庁評価基準に従わなくても違法ではないと主張する。

しかし、「準じて」という意味は、原規定又はその事柄をそのまま用いないで、それから離れて、それとは別に規定を設け、あるいは取扱いを定め、又は計算などをする場合に、ある一定の規定又は事柄を基準としてのっとる、すなわち、準拠又は守るという趣旨のものであって、決してその基準から逸脱してよいという意味のものではない。都評価要綱は、自治庁評価基準によれば家屋に含められない附属機械類を家屋と一体として評価すべきものと定めており、そののっとるべき基準とは大いに異なるものとなっている。

右法第七三条の二一第二項は、その後の改正によって「第三八八条第一項の固定資産評価基準によって、当該不動産にかかる不動産取得税の課税標準となるべき価格を決定するものとする。」と改められ、また、法第三八八条第一項でも、固定資産税にかかる自治大臣の任務につき、「自治大臣は、固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続を定め、これを告示しなければならない。」と改正されたのであり、かかる立法のすう勢からしても、前記法第七三条の二一第二項の「準じて」を被告のごとく解釈することは失当というほかはない。

(二)  被告は、本件附属機械類を本件建物に含ましめて評価したことは法律制度的にはなんら違法ではなく、社会通念上正当であるかどうかということに帰着する旨主張する。

しかし、法第七三条第三号は、家屋とは住宅・店舗・工場・倉庫その他の建物をいい、発電所及び変電所を含まないと定義して、機械類等を不動産取得税の対象に含めていないばかりでなく、法第三四一条第一号は、固定資産には土地、家屋及び償却資産の三種があることを明らかにし、同条第三号第四号において家屋と償却資産の意義をそれぞれ定義し、また、同条第九号は、固定資産課税台帳を土地及び家屋(補充)課税台帳と償却資産課税台帳とに分けている。このように法律上家屋と償却資産とは截然と区別されているのであるから機械類を家屋に含めるかどうかを社会通念にてらして決める余地など全くなく、法律制度的に不動産取得税の対象たる家屋のなかに機械類を含めてはならないのである。

(三)  また、被告は、自治庁評価基準に従って評価算出しなくても、算定の結果が適正な時価をこえるものでなければ、違法ではないと主張する。

しかし、法第七三条の二一第二項、第三八八条第三項は、賦課決定の時点において自治庁評価基準に従って評価せよと法定しているのであって、恣意的な評価を禁じているものといわなければならない。これはたんなる後日の評価による結果的な誤差のいかんによって治癒される性質のものではなく国民に対し課税の公明公正を保障する基本的原理の要請による法規範である。その時点において自治庁評価基準に従って評価しなければ行政法上の公正手続の原則、憲法第三一条の法定手続保障の原則に違反し明らかに違法である。いわんや被告主張のごとく、東京都評価要綱に従った評価は、本訴係属中に被告が自治庁評価基準に従って評価した金額を上廻っているから、上廻っている部分のみを取り消せばよいのだというがごとき独自の主張はとうてい容れることができない。のみならず、本件建物を自治庁評価基準によって評価した場合の被告主張額七三四、四六四、八〇〇円は過大である。右被告の評価は、たとえば間仕切骨組というような自治庁評価基準にはない部分別項目をあげて評点数を算出しているうえ、個々の項目についても評点数を不当に吊りあげて計算しているところがある。

第五証拠関係≪省略≫

理由

一  請求原因第一項の事実は、当事者間に争いがない。

二  本件建物に対する法の適用について

(一)  不動産取得税は、不動産の取得に対しその取得者に課されるものであるが(法第七三条の二第一項)、家屋が新築された場合においては、その取得の時期を個々に認定することが困難であるとともに、その建築請負人又は建売業者の形式的な所有権取得に対する課税を避けて、実質上の取得者に課税する必要があるため、当該新築家屋について最初に使用又は譲渡が行われた日をもって家屋の取得がなされたものとみなし、その家屋の所有者又は譲受人を取得者とみなして、これに課税することと定められている(法第七三条の二第二項本文)。そして、右の家屋が新築された場合ということの意義について、法はこれをとくに明らかにしていないけれども、不動産取得税が不動産としての土地又は家屋の所有権の取得に対して課されるものであることからすると、新築という事実上の行為により所有権の対象たりうる独立の不動産となったこと、すなわち屋根及び周壁を有し土地に定着する一個の建造物として存在するにいたったことをもって、家屋が新築されたものと解するのが相当である。

被告は、家屋が新築されたというためには、独立の不動産として遇しうべき状態に達するだけでは足りず、本来の用途に応じて現実に使用収益しうる程度に完成されたことを要すると主張する。

しかし、不動産取得税は、不動産所有権の取得自体に対して課されるいわゆる流通税であって、取得者がその不動産を使用収益することによって得る利益に担税力を認めて課されるものではないから、現実に使用収益できる程度に完成することを課税の要件とすべき合理的理由はない。被告は、もし不動産として遇しうべき状態に達することをもって新築と解するならば、大きなビルディングの新築の場合などに法第七三条の二第二項但書の適用されることが多くなり、請負業者に対する課税を避けようとした前記の趣旨が滅却されるというが、後に認定するとおり、本件建物のような巨大なビルディングの建築においても、主体工事の完了によって独立の不動産となった後ほぼ六ヵ月で建物が請負人から注文者に引き渡され、最初の使用が開始されていることに徴すると、前記の解釈をとることにより請負業者に課税されることが不当に多くなるものとは考えられない。また、使用収益しうる程度に完成することを要しないとすると、その後の工事により家屋が完成するまでに生じた価格の増加分については、それが法第七三条第八号の改築にあたらない以上、不動産取得税を課することができないことになるけれども、このような結果は新築の場合だけに生ずるものではないことは被告も認めるところであり、前記の不動産取得税の性質にてらせば、とくに不都合としなければならないことではない。かえって、被告の主張するように、いったん完成した家屋については、その後の火災等により使用収益できない状態となったものでも、独立の不動産としての存在を有するかぎり、その譲渡に対して不動産取得税が課税されるとしながら、新築家屋についてのみ、すでに独立の不動産となったものを譲渡した場合でも、それが使用収益しうる程度に完成していなければ課税できないとすることは、彼此均衡を失し、租税負担の公平を欠くといわなければならない。

(二)  ところで、不動産取得税は、昭和二九年法律第九五号によって創設されたものである。そして、同法附則第一項によれば、右改正法は公布の日である昭和二九年五月一三日から施行するとされているが、同附則第二〇項は、「新法第七三条の二から第七三条の四四までの規定は、建築された家屋に対して課する不動産取得税については、昭和二九年七月一日から適用する。」と定めている。これは、不動産取得税は、原則として法公布の日である昭和二九年五月一三日以後の不動産の取得に対して課されるのであるが、家屋の建築による取得の場合に、他の場合と同じく法公布の日以後の取得をとらえてただちに課税することは、すでに建築に着手しているものに対して予期しない税負担を課することとなるので、ある程度の猶予期間をおき、同年七月一日以後に取得があったものについて不動産取得税を課するという趣旨であると解される。したがって、さきにのべた法第七三条の二第二項の解釈を前提として家屋が新築された場合の関係についていえば、新築により独立の不動産として遇しうる状態に達した家屋につき法第七三条の二第二項にいう取得すなわちその最初の使用又は譲渡が同年七月一日以後に行われれば、その不動産となった時期ないし所有権取得の時期が右七月一日前であるかどうかに拘りなく、不動産取得税が課されることとなるのである。

これに対し、原告は、昭和二九年七月一日の法適用前に新築により家屋の所有権を取得したものに対して課税することは許されないと主張する。

しかしながら、法第七三条の二第二項本文は、前記のとおり、家屋が新築された場合について同条第一項に対する特例を設け、その家屋の最初の使用又は譲渡が行われたときをもって不動産取得税を課する意味における取得があったものとみなしているのであって、その新築ないし所有権取得の時期がいつであるかということは課税要件としてなんら問題としていないのであるから、前記附則第二〇項との関係において、右の新築ないし所有権の取得が昭和二九年七月一日以後になされることを課税要件と解すべき理由はない。法適用前に不動産として遇しうる状態に達したという意味で家屋が新築されているのに拘らず、その最初の使用又は譲渡が法適用後に行われたことをとらえて不動産取得税を課することは遡及課税となるようであるけれども、本来、課税要件をいかに定めるかは立法政策の問題であり、家屋新築の場合にその所有権取得の時期を認定することの困難性や法適用までに前記の猶予期間がおかれたことなどを考慮すれば、新築家屋について法適用前に所有権の取得があったかどうかを問わず、その最初の使用又は譲渡を取得とみなして課税することをあえて不合理なものということはできない。

(三)  以上の見地に立って本件をみると、≪証拠省略≫を綜合すれば、本件建物は、鉄骨鉄筋コンクリート造地下二階地上八階の近代的高層ビルディングであり、その主体工事は清水建設株式会社が請負ったが、建築の主要材料は原告が現物支給したこと、工事は昭和二八年五月六日に始まり、翌二九年三月一七日ごろ主体工事が一〇〇パーセント完了し、同年六月三〇日現在では仕上工事も七〇パーセントほどできていたが、すべての工事が終って清水建設株式会社から原告に竣工による引渡しがなされたのは同年九月三〇日であり、同年一〇月一日落成式が行われ、同日から原告がこれを使用していることが認められ、これに反する証拠はない。

右の事実によれば、原告の所有である本件建物について最初に使用が行われた日が昭和二九年七月一日以後であることは明らかであるから、そのときにおいて右建物の取得があったものとみなされ、したがって、前記の理により不動産取得税の賦課を免れることはできないといわなければならない。

三  本件建物の評価について

(一)  不動産取得税の課税標準は、不動産を取得したときにおける当該不動産の価格すなわち適正な時価であるが(法第七三条の一三第一項、第七三条第五号)、右不動産の価格の決定につき、法第七三条の二一は、固定資産課税台帳に価格の登録されている不動産についてはその価格によるものとし、右台帳に価格の登録されていない不動産については、法第三八八条第三項の規定によって示された自治庁評価基準に準じて価格を決定すべきものとしている。右自治庁評価基準は、固定資産の評価に関し各市町村間の均衡と適正化をはかるため、自治庁長官から市町村長に対する技術的援助として示されたもので(法第三八八条)、固定資産課税台帳に登録する固定資産の価格の評価は同基準に準じて行わなければならないものと定められている(法第三八九条第一項、第四〇三条第一項)。したがって、不動産取得税における不動産の価格は、結局のところすべて自治庁評価基準に準じて決定すべきこととなるわけであるが、その評価は同基準に準ずれば足りるのであるから、必ずしも同基準を全面的にそのまま適用しなければならないものではなく、同基準の示すところに準拠しながら、必要に応じて各市町村における実情等によりある程度の修正を加えて適用することも許されるものと解するのが相当である。右法第三八八条等の規定は昭和三七年法律第五一号によって改正され、それまで自治大臣が市町村長に対して与える技術的援助にすぎなかった評価基準はその性格を一変し、自治大臣が告示の形式をもって定めるべきものとされる(右改正後の法第三八八条第一項。右改正前は通達によって示されていた。)とともに、市町村長は同基準に「準じて」ではなく、それに「よって」固定資産の価格を決定しなければならず(同法第三八九条第一項、第四〇三条第一項)、また、固定資産課税台帳に価格の登録されていない不動産について不動産取得税の課税標準たる価格を決定するについても同様にしなければならないことが定められたが(同法第七三条の二一第二項)、この改正によってはじめて、右評価基準と異なる評価をすることがいっさい許されないという意味で同基準に法的拘束力が認められるにいたったものと解すべきであり、それ以前において同基準に右のような拘束力を認めるべき根拠はない。

(二)  本件において、被告が固定資産課税台帳に登録されていない本件建物(本件建物の価格が右台帳に登録されていないことは弁論の全趣旨から明らかである。)の価格を決定するにあたり、自治庁評価基準によらず、都評価要綱に従い別紙目録(二)記載の各物件を本件建物に含めて評価したこと、自治庁評価基準によれば、右目録記載の物件のうち少なくとも一(消火設備)の(二)(三)(四)(五)及び二(暖冷房換気設備)の(一)ウを除くその余の物件は建物とは別に償却資産として評価すべきものであることは、当事者間に争いがない。

ところで、本件建物の評価に関係する部分について自治庁評価基準と都評価要綱とを比較してみると、自治庁評価基準第二章第八項(附属設備の評価)では、家屋の附属設備でその他の部分と一体をなして効用を発揮しているもので当該家屋の所有者の所有に係るものは、これを家屋に含めて評価するが、同項別表上欄表示の附属設備に附属する同表下欄例示の機械(動力用のモーター、ポンプ、ボイラー等)で事業用のものについては、償却資産として別途評価するものと定められているのに対し、都評価要綱第三章第一節通則中(家屋の範囲)の(2)では、もっぱら且つ直接家屋の効用を増すために設けられた同項表示の設備(その範囲は自治庁評価基準の前記別表上欄表示の附属設備とほぼ一致する。)は、家屋の一部として家屋の価格に包含するものとし、家屋と右設備の所有者が異なる場合には、事業用のものにかぎり償却資産として取り扱うこととしている。すなわち、両者は、家屋の附属設備に附属する事業用機械を家屋に含めて評価するかどうかの点で取扱いを異にするわけであるが、課税上不動産の価格を決定するにあたり、どの範囲のものまでを家屋に含めて評価するのが相当かはきわめて微妙な問題であり、前記自治庁評価基準のような立場をとることもできるけれども、他方、家屋と一体をなして効用を発揮する附属設備に附属する動力用モーター、ポンプ、ボイラーなど前記自治庁評価基準第二章第八項別表下欄例示の機械類は、それが設置されていることによって家屋そのものの価値・効用を高めることができるのであるから、都評価要綱のように、右附属機械類を家屋の価格に含めて評価することも決して不合理ではないし、また、≪証拠省略≫によれば、右都評価要綱は東京都が昭和二六年以来固定資産の評価基準として一般的に使用していたものであることが認められるのであって、これらの点を考慮すると、都評価要綱が自治庁評価基準と異なり、前記附属機械類を償却資産として別途評価することとせず、すべて家屋に含めて評価するものとしたことは、自治庁評価基準に準拠すべき地方団体に許容された合理的修正の域をこえないものと認めるべきである。したがって、右都評価要綱を適用して行われた本件建物の評価は自治庁評価基準に準じたものといって妨げなく、その価格の決定に原告主張の違法はない。

四  裁量権の濫用について

原告は、本件建物が昭和二九年六月三〇日現在において主体工事を一〇〇パーセント、仕上工事を七〇パーセントも完了していたのに、仕上工事の三〇パーセントが未了であるとの理由で全面課税の措置をとったことは裁量権を濫用したものである旨主張する。

しかしながら、前記の認定事実と法律七三条の二第二項及び附則第二〇項の解釈からすれば、被告としては本件課税をなすべきが職責上当然であり、課税を差し控えなかったことをもって裁量権の濫用ということはできない。もっとも、≪証拠省略≫によれば、自治庁は、昭和二九年九月二五日自丁発府第八一号府県税課長発石川県総務部長宛回答において、同年六月三〇日現在建物の一部について工事が終了しているときは、情状により、当該建物に対する不動産取得税のうち建築が完了したとみられる部分に対する税額程度の減免をすることはやむをえない旨の見解を示していることが認められるけれども、右回答は、建物のうち独立の部屋又は階などの工事が完了している場合に関するものであって、本件のように主体構造部とか外装又は内装部分というような構造上の一部について工事が終了している場合にまで減免を認めたものではないと解されるので、本件において右回答により税額の一部減免の措置をとらなかったことを裁量権の濫用と非難することはできない。

五  以上のとおり、原告の主張はすべて理由がなく、他に本件賦課処分を違法とすべき事由は認められない。

よって、本件請求を棄却することとし、民訴法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高津環 裁判官 内藤正久 佐藤繁)

<以下省略>

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